ルンバができた理由その2
「『ルンバ』を作った男コリン・アングル『共創力』」著者:大谷和利氏を読んで
ルンバ開発の苦労
前回もルンバの開発に近道はなかったことを書きましたが、他にもどんな苦労があったのでしょうか?
例えば、初期のルンバを満充電にして放っておくと、バッテリーが放電してしまうということがあったそうです。
アイロボットのスタッフはルンバを満充電で放置した事がなかったので、そこに気づきませんでした。
このようなことで、テスト専門のエンジニアの必要性がわかり、出荷後の不具合を減らせたようです。
「彼らは、毎日起きると『さあ、今日もルンバを痛めつける装置を作るぞ』とつぶやくような人間たち」(166p)と書かれていて、ルンバの嫌がることをいつも考えているテストエンジニアがいるのです。
さらには、最初のルンバの各部品には150時間の耐久性がありました。その根拠はヨーロッパのエレクトロラックスの普通の掃除機に準じてです。
ところが普通の掃除機は週に30分しか使われていないことが見落とされていました。
「一日一時間程度、それも毎日」(176p)使われるルンバは半年弱で壊れることが普通になり、その度にアイロボットはルンバを新品に交換していたそうです。ですから次の世代のルンバができるまで使ってくれたユーザーは5台くらいのルンバを交換しながら使ったそうです。
こんな経験を積み重ねながら、ルンバは日本へもやってきました。
ルンバが日本へ
ルンバは日本進出を二回していて、最初は失敗しています。
最初は日本のセガトイズと組んでルンバを売り出しました。
でもセガトイズは玩具メーカーなので、ルンバも楽しげなオレンジ色にしたい、との提案があり、アイロボットもそれを受け入れて売りました。
しかし、オレンジの樹脂は透明度が高く、外からの光を透過し、内部の赤外線センサーが誤動作を起こすようになってしまいました。これがきっかけでアイロボットは日本から一度撤退しています。
日本の代理店もルンバをおもちゃみたいに捉えていましたし、ルンバの品質管理体制も脆弱だったからです。
その頃、ルンバを並行輸入していたセールス・オンデマンド株式会社(SODC)という会社とアイロボットが出会い代理店契約を結びました。
この会社との協力で、世界一品質に厳しい日本人にもルンバを浸透させることができたのです。
例えば、ルンバの創業者コリンさんは、日本では塗装面の少しのムラがあるだけでも買ってもらえないこと、またパッケージに傷があることは愚か、配送の箱の凹みもNGとされ、配送の箱を保護する箱も必要になったことを語っています。(169p)
さらに、アメリカ本国では壊れたルンバが返品されるとそのまま廃棄されていましたが、日本では壊れたルンバを引き取って分解し、故障の様子を把握し、本社に壊れた所を報告し、原因を根掘り葉掘り質問することが行われていました。
コリンさんがSODCを訪ねると必ず最初に壊れたルンバを渡されて、まずそれについての話し合いが行われるというエピソード(180p)からも、日本人がいかに製品の品質に興味があるかがわかります。
ルンバからブラーバへ
これまで挙げたような協力の結果として、ブラーバという床拭きロボットも日本でも売れるようになったと思います。
家の中で靴を脱いで過ごす文化、そしてフローリングが普及している日本では、ただ床のゴミがないというのではなく、床がザラザラではなくツルツルであることが求められるからです。
アイロボットがこれから考えていること
アイロボットの創業者コリンさんはアイロボットのこれからについて「ホームを理解する」(185p)企業にしようと考えているようです。
それはなぜ必要なのでしょうか?
「現在のIoTデバイスを利用してスマートホームを構築した場合、思ったように機能させようとすれば、細かな設定や適切なアプリの選択なども含めて広い意味でのプログラミングが必要となる。自宅をスマート化する夢を抱いて様々なIoTデバイスを購入したはよいが、設定ができずに諦めてしまう人がいても不思議ではない」(185p)
つまり今はスマートホームにするために便利なIoT製品を揃えても、お客様が本当に望んでいるように設定するには知識や労力が大きすぎて、諦めてしまうということです。
その設定も自動で行え、ユーザーが家を出たら掃除してくれたり、急に汚れた場所を声を出して言うだけで掃除してくれるようなことがルンバで始まっています。
そのうち、ルンバは家の間取りや障害物をしっかり勉強し、ユーザーの生活習慣やペットの動きも記憶して、ふだんほとんど気をつかわなくても掃除を完璧にする様になるでしょう。
やがて、その情報が他のIoT機器にも共有され、今までさまざまな設定をしたり、気をつかわなければいけなかった家事の道具が、自然と動いてくれるようになるのかもしれません。
ルンバが単なる自動掃除機に終わらないことがわかりますし、楽しみです。