ルンバができた理由

2022年4月25日

「『ルンバ』を作った男コリン・アングル『共創力』」著者:大谷和利氏を読んでーその1

国防ロボット企業としてのアイロボット

ルンバはお掃除ロボットです。しかし、掃除機メーカーが作っていたら、こんなにうまくはいかなかったと思います。

もともとアイロボット社は国防関連ロボットを製造する会社だったようです。パックボットという軍用遠隔操作多目的ロボットなどを開発していました。

パックボットは2011年、放射線量や温度、湿度を測るために東電福島第一原発に入った初めてのロボットとして感謝されました。

人間に過酷さを強いる「退屈」「不衛生」「危険」な条件で働けるロボットです。 

消費者向けロボット

しかし創業者のコリンさんは軍用ではなく、消費者向けに便利なロボットを開発したいと考えるようになり、「マイ・リアル・ベイビー」(128p)という5種類の表情を口元と眉の動きだけで表現する、赤ちゃん型ロボットを売り出していました。このロボットはあまり可愛くなかったそうですが、特に自閉症の子供に感情豊かに反応してくれるということで人気があったそうです。

さらにはジョンソンワックスと提携してスーパーの床掃除をするロボットの開発もされていました。

面白いのは「カリブ海から大西洋にかけてサンゴ礁を荒廃させ、在来魚にも被害を与えてきた外来魚の魚、ミノカサゴを駆除するためのロボット」(137p)です。

ダイビングでバミューダ諸島を訪れたときに、地元の方が困っている様子を聞き、このロボットを思いつかれたようです。

「遠隔操作技術と感電装置が組み込まれたこのロボットは、カメラによってミノカサゴを見つけると電極で挟んで気絶させ、内部に吸い込んで回収する」(138p)このロボットはミノカサゴの駆除と、食用に販売するという両方の効果を生み出しています。

こんなふうに一般の人が便利になるようなることをロボットで解決しようというロボットと人間への愛情が感じられます。

国防関連のロボットは高価で、訓練をしないと使えないものが多いようですが、一般消費者向けに開発するには、1.安価で買いやすい2.箱から出してすぐ使える簡単な操作3.消費者向けの販売、マーケティング、アフターサービスの組織を作る、というさまざまな課題を解決しなければなりません。

この時に役立ったのが「アイロボットが実用的なロボットを作るために必要な知識と技術を集めてきたジャーニー」(140p)だったのです。

少し調べてみると、日本のA社が出している業務用のロボット掃除機は約400万円、保守コストも年40万円くらいかかります。あまりにも高いので、他のメーカーは価格を出していないくらいです。そのことを考えると、ルンバの安い機種が3万円以下で買えるのは奇跡的です。

このコストダウンは「マイ・リアル・ベイビー」で培った「設計の合理化と大量生産」(131p)のノウハウが役立っています。

ルンバの開発

ルンバの開発が始まった時、スタッフは「コリン、私たちは、今こそコンシューマーのための掃除ロボットを作るときが来たと思います」(140p)と言ったそうです。

それはなぜかというと「アイロボットには、どうすればきれいに掃除ができるか、どうすれば高い機能性をローコストで実現できるか、そして、どうすれば機雷を発見するために一定のエリアをくまなく移動できるか、という知見がすべて揃っている」(140p)からです。

さらには、コリンさんが「エンジニアという人種は、自分で何でもできると思っているんです」(147p)と言っている、コンシューマーが何を望んでいるかが後回しになるような、技術企業としての弱みの克服も一歩ずつ進んできたことがわかります。

ルンバに近道はなかった

ここまでで、ルンバの開発に至るまで、アイロボットという会社が何をしてきたのか、この本を読んで印象に残った点を上げてみました。コリンさんの若い頃のことは割愛しています。

今はルンバがたくさん売れて、床を行ったり来たりして掃除するロボットが違和感なくなりました。

他社も出しているので、意外と簡単に作れるのではないかとも思えますが、あの小さな構造で優れた吸塵能力を発揮するしくみも、すごいと思います。

最初のルンバは「一般的なAC電源を使う掃除機の103分の1のパワーしかなかった」(146p)そうですから、それをここまで一人前の掃除機に仕立てたんですね。

天才が素晴らしいアイデアを出せば、何でもできるし、儲かると考えがちですが、ルンバの開発にいたるまでに「アイロボットは20を超えるビジネスアイデアを考え、試し、破棄している」(125p)そうです。

ルンバが部屋をくまなく回って黙々と掃除するのと同じように、アイデアを出してから回り道をしても、それを無駄にしないよう蓄積していたことが、今このように実を結んでいることは使う側として本当に嬉しいことです。

最近発売されたj7シリーズは、コードやペットの排泄物などの障害物を避ける機能に優れているようです。ルンバは進化し続けています。